「むすびの事」

 

 当家では、多くの結びを秘伝としております。古来、結びには魂が宿ると言われ、結果としての結びではなく、結び方の作法に秘伝がありました。折々の古伝に従い、結びのできる人は、現代ほとんどいなくなりました。残念なことです。

 古伝十一種名香の一木一木には、十一種の結びが伝えられ、香袋の結びの作法を見るだけで、中の香名がわかるようになっておりました。一木一木が、大変貴重な香木であるがための作法です。このように貴重なあつかいをし、訳のわからぬ人が、手をふれることのできないように心づかいをしたればこそ、数百年の後にまで、その香霞を再現できるように残ったのです。さすが、結びは、守り神でもあったようです。結びは、多く、無言のまま何かを伝える役に使われました。現在もまだまだ生きております。

 この機会に結びの秘儀について、皆様にも御伝致しましょう。古伝十一種名香という、日本香道における至極の香木群は、必ず、真の“封じ結び”の内より作法されるのです。また、後の五十種については、これに準ずる事となっております。この「封じ結び」とは、伝を授けぬ者には、決して解けない様に結ばれている結びのことです。そして、この「封じ結び」には、「品位」の事と共に九種類の結びが伝えられております。古来、この封じ方にて結びのあります時は、床に、御宸翰(ごしんかん)のある場合と同様の行いになる約束です。

 茶の湯の世界では、茶壷飾りや、濃茶器の仕服の結びなどに古来の結びの秘儀が用いられていますが、一つ一つ深い意味をもっています。真行草の結びなどと言われているほんとうの意味は、何なのでしょう。天目茶の仕服に用いられる、勝虫結び(トンボ結び)は、なぜ、真の結びとされているのでしょう。故事来歴を知らずに、結ぶ方ばかり覚えていても、何の役にも立ちません。千利休は知っていました。武野紹鴎は、紹鴎袋棚の伝と共に、結びの伝を利休に相伝しているのです。しかし、すでに、一般には、江戸時代には、継承が断たれているのです。

 古伝では、唐物の茶入れは、丸袋長緒で、真封じで結びます事が秘となっております。有名な“初花”や、“遅桜”など本格的な肩衝茶入などの作法が、古伝で行える事は、いまやないのかも知れません。丸袋は、現代、御物袋とも言われ、茶入れを、挽家に納めておく時に、休め袋として用いられていますが、残念なことです。茶入飾りに茶入れを丸袋に入れて茶の中に仕組む様に古伝の残されている事は結構なことですが、本来、古伝の丸袋を持たぬ茶入れは、茶入飾りにする品位を持たぬとされていたのです。丸袋長緒は、短緒は、短緒の仕服より格は上位なのです。唐物の茶入れを持たぬ者には、古伝の作法は、不必要だったのです。茶の湯の世界でも、無言の内に意味のある世界が築ける様に仕組まれていました。

 

 

◇梅結び行◇

 同じ梅結びでも結ぶ、時と場(時空)によって変わります。梅結び一つでも、基本的に、真行草の三種類の結び方があり、皆伝までには九種類もあります。

 「梅結び行」の結びは“花結びの伝”“虫結びの伝”を知れば、[さくら]・[ききょう]・[こちょう]の結びとなります。これらは同じ下結びからの展開で基本的な結びの伝であります。

 又、同じ名称の“結び”でも、伝の違いによって結び方がかえられております。有名な十二か月表裏の二十四種の結びではこの大変な秘伝をかくし、古来の結びの基本をほとんど伝えております。この二十四種を正確に結べるということは権威でもありました。似て非なるものは認められません。結び方を結果の姿からさぐっても真意を知る事はできません。あくまでも、真意を知り結び方を正しく学び、結果としての“結び”が完成されるための“結び”でなくてはなりません。結び手の心の働きの“姿”が、結果としての“結び”に示現されるのです。この心にして、はじめて、“結び”に魂が宿ると言えるのです。どのようにして、結ばれたかが、芸道における“結び”には、必要とされております。“結ぶ時は、左ひざ上にて行ず”“解く時は、左手上にて行ず”大事な伝です。香袋の長緒における秘伝であります。

 

 

 【蓮結び】秘伝

 香道も茶道も、深い真理により継承され続けております。南北朝の時代に、楠正成公が、後醍醐天皇より、拝領の香木は、永い年月を経ても、香霞と変じました。現当主としましては、これ以上の事は、できません。当家には、「うらしま」という茶碗が、傳わっておりますが、この茶碗を、用います時には、香霞と「うらしまたろう」の話との関連により、行う約束となっております。冬になりましたら、お話し致したく思っております。香道は、故事来歴により成り立っております。香道形成期に、何故に、聖徳太子が、香道の祖と仰がれたのでしょう。この、答えこそが、未だに、香道を継承し続ける必要性の根本なのです。

 古来、八月十五日には、銘香「銀沙」を空たきに、銘香「いかるが」を、たく事と、なっております。何百年も、繰り返されて来た事の真意が、よく解されます。人間が繰り返し行ずればこそ、日本芸道は、生き続けます。「聖太極」(としたき・ひじりだいだいのきわみ)の傳は、聖徳太子により、発願され、示現されてまいりましたが、平成の御世にまで続いております。事実、拙が、二十一世当主として、大佛の尊顔を拝し、新しい平成時代幕開けの儀式のために使命をうけました、「蘭奢侍」一香の献香により知り解せました大事は、多々あります。全ては心法に始まり心法に帰しています。

 結び方一つにも、大事な、心法があり、結果として同じように見えても、似て非なるものでは、何にもなりません。似て非なるものは、似せ物でしかないのです。結びには、魂が、宿ります。というのも、結ぶ時の「手すじ」結果、結びとなるのです。結びにとって、大事なのは、「手すじ」なのです。「手すじ」とは、どのような、手の動き(働き)により結んだかという事です。ここに、古傳が、生き続けているのです。「祓い」の意味もあります。八月十五日の香袋の結びは、「蓮結び」でした。

 

◇蓮結び◇

 普通「蓮結び」は、十二ケ月の結び表裏二十四種の内、六月の裏結びとして結びますが、古くは、供養香の香袋の結びとされてまいりました。特に六十一種名香、筆頭の「法隆寺」は、古傳により、この結びの内に、納められる事となっております。この「蓮結び」は、四つの作り輪により、八つの働きを作り、この結びの内の香をくのに、香炉の灰形を、六割り真に切る約束であります。銀葉の形、火の加減、などなど、多くの約束を守って、太子の時代と同じ香霞をてるのです。香道史上、最古の香木をくための決まりなのです。次位の「東大寺」をくにも、同様の心法が、生き続けているのです。この「蓮結び」は、古傳十一種名香中、寺号を持つ香木に、共通の結びなのです。

 

◇封じ結び◇

 古来この“結び”にて結ばれている時は結び手以外そのものに手を触れてはならない約束である。ということを心にとどめておいて頂きたく思います。どのように結ばれているのが「封じ結び」であるかをも知らないようでは何とも寂しいではありませんか。

 古来ルソン一番壷には真封じ結びを差方するとの約束であります。茶の湯でも茶壷を構えることの少なくなった現代では、真行早の飾り結び程度しか行われなくなってしまいました。その真行早の飾り結びすら本来の意味を知る人の、少なくなったのには、驚かされます。どうぞ、皆様も、本年の口切りの茶事には、是非とも、真行早の、結びの意を、先達に確かめておかれ、口切りの茶の価値を、一段と高められますよう、念願致します。結びの意は、流儀にかかわりなく、真意は一つであり「知っているのか」「知らないのか」ということなのです。

 

 

 「十二ケ月の結び」

 結びにも、十二ケ月の結び表裏二十四種という有名な、長緒結びがありますが、これは本来表結びの内に、香包み六種づつ計七十二種の香木を秘し、この二十四種の香木を秘するための結びです。この二十四種の結びを、集大成したのは、新古今集の撰者でも有名な、藤原定家卿です。この事は、香道において、秘中の秘とされ、当家においても、ここに公表に踏み切るのに、大変な、覚悟を要しました。この件に関し、三日三晩を費やしても語り尽くせない理が伝承されております。この香袋の作り方にも多くの約束があり、一種のきれで作る場合と、二種のきれで作る場合には、使い方に大きな違いを持ちます。

 さて、この「大和しうるわし」HPで写真紹介しました花やまと結び表十二ケ月の結びは、古来の手すじで結んであります。藤原定家卿御伝の、十二ケ月の結びには特に、十二支の秘伝を、あらわしし伝えています。又、名香六十一種は、六十干支を表しています。六十プラス一[園城寺]として、神秘的数の秘密を隠しています。

 

 






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