| 士道館甲斐駒道場 |
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| 今年の稽古納めも、もう弐日目。 例年ですと身も凍る中での稽古ですが、今年はとても暖かかったです。 何せ建物の中にいた時の方が寒かったのです。 これは後に知ることとなりましたが、東京の方も夏日だったそうで・・・。 |
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| 士道会の稽古は、日の出前からの朝稽古が基本です。 現代のこの日本では、学校や仕事が終わった後の、夜の稽古が普通になっています。 私も士道会以前は、そんな稽古が普通であり、当たり前でした。 朝だろうと夜だろうと、どの時間に稽古しても、物理的には同じ稽古です。 しかし、われわれ人間は、物理的な存在と同時に、精神的な存在であります。 ・・・違うのです。 朝の稽古、昼の稽古、黄昏時の稽古、夜の稽古、そして深夜の稽古。 同じ内容の稽古でも、その全てが違います。 ぜひ体験してみて下さい。 当然、各季節毎に日の出の時間は違います。 ですから、日の出の時間に合わせて、起床時間も日々変わります。 古来からの不定時法の世界です。 日本人に限らず、世界中の人々が、古来よりこの不定時法の世界で生きてきました。 われわれが今、当たり前のように生きている時計の支配する世界―定時法の世界は、 人類の歴史から見れば、つい最近の出来事です。 本来であるならば、長年馴染んできたこの不定時法の世界の方が、われわれの身体には合っているのです。 西洋流の考えや生活と同様に、まだまだわれわれの身体には馴染んでいないのです。 布団をたたみ、洗顔を済ませ、白袴を身にまとい、道場に向かいます。 入口の障子は閉められており、その前で座し、時を待ちます。 道場では既にご当主が稽古しておられます。 障子の向こうから刃音が聞こえます。 そこは、われわれには絶対に観ることのできない世界―厳しい玄人の世界です。 その間に在るのは薄い障子一枚ですが、この障子一枚の何と遠いことか。 彼岸と此岸。 この障子には無限の距離があります。 努力だけでは、どうともならない絶対の世界。 喩えれば、宇宙の中心や宇宙の果てを観ることが出来ないのと同様の世界です。 これは私だけの考えかもしれませんが、そんな世界が在ることが好きです。 そして何だか、とても嬉しいのです。 このような素晴らしい世界には、唯々頭を下げることしかできません。 何でも公開公開のこのご時世に、このような世界が今も守られているのです。 目を瞑り、刃音に耳を傾け、心に想います。 勿論、欲がありますから覗いてみたいのも事実ですが・・・。 時間になりますと道場に入る許可が下ります。 朝の静寂を乱さぬように、一礼して静かに入ります。 |
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| 日本では神聖な空間には、素足で出入りするのが為来です。 お榊を上げ、供物を捧げます。 この正心之館では、甲斐駒ケ岳の摩理支天さまをお祭りしています。 武の神、摩理支天さまの元で稽古できる幸せを、毎回噛み締めています。 多くの道場でも神棚がありますが、あるだけに終わっている所が多いように思われます。 非常に残念なことであると同時に、恐ろしいことです。 何故、道場に神棚があるのでしょうか? 何故、神棚があるのにお榊を上げないのでしょうか? それならば今風のお洒落な”ジム”で良いのではないでしょうか。 軽快な音楽と共に運動し、楽しく汗をかけば良いのでしょう。 でもそれだけでは、やはり日本人は納得できません。 何かが足りないのです。腹に納まりません。 道場とは”道の場”と書きます。 運動場をわざわざ「道場」と呼び、その運動を「稽古」と言ってしまう、 その日本人の心根があるから、納得できないのでしょう。 皆様の道場でも、神棚を掃除して御榊を上げて、拝礼してみて下さい。 正に神々しい世界が生まれます。通いなれた道場が一変し、稽古の内容も変わるはずです。 |
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| 士道会では稽古より大切なものが二つあります。 ひとつは先程の神棚をお祭りすること。 もうひとつはこの掃除です。 道場の板はわれわれの心です。 床を磨きながら、同時にわれわれの心をも磨きます。 全身全靈の力での雑巾がけです。 以前、ご当主により 「お前達は五つの時に學ぶべきことを今、學んでいる」 と言われたことがありました。 そしてこの正心之館の板は、今時珍しいニスを塗っていない、自然の板の道場です。 体育館のように、靴で運動することが前提の堅い板ではありませんので、 思い切って稽古することができます。 素晴らしい自然の中にある、素晴らしい板の道場。 この道場で稽古できる幸せを、心より感謝しながらの雑巾がけなのです。 |
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| 夜明け前に居合の稽古を行ないます。 朝の静寂を乱さぬように、板を薄氷と想像しながら、静かに刀を抜き差しします。 人殺しの技の稽古ですが、人殺しの稽古ではありません。 己の内にある悪しき者―我を殺すための稽古なのです。 ![]() われわれの生活するこの社会が、複雑になればなる程、われわれの我欲も複雑になっていきます。 昔の人は少ない欲望で暮らしてきましたが、今ではわれわれ庶民でも、 かつての王侯貴族のような巨大な欲望を持っています。 そのひとりひとりの醜い己を「一刀一断」の精神で斬り捨てます。 己の内側である心と、外側である身体を観ながら抜きます。 雑念に囚われると、すぐ姿勢が崩れます。 何物にも囚われない心を目指して、稽古を続けます。 |
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![]() 日の出前、道場の軒に出ます。 抜刀して正眼の構えで、東へ向きます。 雲が流れ、鳥が空を翔け、山際がしらじらと明るくなっていきます。 夜明け前の空は、刻一刻と変化していきます。 一秒たりとも同じ風景はありません。 日の出を待ちながらの立ち稽古。 日の出の勢いをいただくための立ち稽古。 この素晴らしい景色の前に、もうどれぐらい立っているのか・・・。 人の世の間拍子ではなく、天地(あめつち)の間拍子です。 肉の身は悲鳴を上げます。 でも、どんな辛い時でも構えを崩さない。 常々、教わることです。 その時が来ました。 日の出です。 天と地と人の出会い。 現代人がもっとも忘れているこの瞬間。 新しい太陽が、新しい一日を与えて下さいました。 でも、この素晴らしい瞬間ですら、あっという間に過ぎ去っていきます。 一日はこれからですし、われわれの稽古も、まだまだこれからです。 |
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| 居合が終わると、木刀に持ち替えて剣道形の稽古です。 居合と違って相手がいる二人稽古です。 ![]() 現代の武道では型稽古が軽視されています。 教育でも型にはめない、個性を伸ばす教育が好まれています。 しかしそれは正しいのでしょうか? そもそも個性なんて在るのでしょうか? 武道を例にあげれば、型稽古軽視、組み手重視の稽古の為、 空手なのか相撲なのか拳闘なのか、わけのわからない格闘術になっているように思われます。 剣道形では”間”を學びます。 踊りにならないように、間抜けにならないように稽古します。 同じ型でも相手の技量や体格により、その稽古は千変万化です。 同じ相手と同じ型の稽古をしても、昨日と今日、そして明日では大違いです。 |
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| 甲冑とは言いますが、博物館に所蔵しているアレではありません。 一般には防具と呼ばれているものですが、大和古流に倣って士道会でもそう呼んでいます。 たまに一般の人に士道会の稽古を説明する時、つい甲冑と言ってしまうと、 吃驚されてしまうのが度々ですので、要注意です。 道場中に切り返しの聲が木霊します。 素人集団、士道会の甲冑稽古は単純明快です。 一旦、稽古が始まったら面を外さないで、一秒たりとも休まず稽古を続ける。 己の限界まで稽古し、その紙一重上に到達する。 相対したら、ただただ、真直ぐ面を撃つ。 稽古とは仮に死に合うこと。小手先切って相手の命が獲れるものか。 手を失って生き残った武士のことを考えろ。 こちょこちょ撃たないで、正々堂々と撃て。 面も真直ぐ撃てないのに、小手や胴が撃てるものか。 そもそも、棒振りが上手くなったって、それがどうした。 この道場で學んで、身に修めた勢いで、人生を切り開くことが大切なのだ。 お互いに打ち合い、氣合を高めた後に、総師範であるご当主の御前に立ちます。 門弟の中には、未だ甲冑を身に付けることを許されず、前に立てない者もいます。 相手は玄人中の玄人。そもそも勝ち負けは論外です。 その玄人のご当主が、素人と相対して下さる幸せを感謝しつつ。 教わったことを教わった通りに、生き残ることなんて考えもせず、望みもせずに。 ただただ、氣合いを込めて・・・。 面ーーーー!!!!!!!!!!!!!!!!!!! |
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| 身を削る稽古の後は温泉です。 そのまま蜻蛉返りで、翌日仕事では身体がガタガタです。 夕刻まで滞在して、英気を養います。 ここでのご当主のありがたいお話は「風呂場剣道」と呼ばれています。 |
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